黒の泡沫から、赤い鍵へ。

久しい。本当に久しくこの姿をとる。面映い心地だ。
此処もすっかり変わり果てたな。賑やかだった頃は昨日のことのようだというのに。
私も、もはや『私』という一人称だったか?などと何度か確認してしまう程だ。
合っていると思う。合っている筈、だ。
これでは年寄り呼ばわりされたとて、文句は言えない。
困ったものだな。

自分の事こそ曖昧だが、お前の一人称が『俺』だったことは間違いなく覚えている。
強いふりをしていても面倒見がよく、ツッコミも欠かさない。撫でると少し照れながらも大人しく、よく笑った。
お前を抱えて夜の森を飛び、夜の散歩もした。
クリスマスに子犬を受け取ったお前がとてつもなく喜んでいたこと。
私の兄(だったと思う。金髪のユーリだった気がする。まったくいかんな…)と兄の猫達、お前と私、私達の犬と共に旅行に出たこと。
スレッドを建てる際にお前の名前の意味を聞いておけばよかった、と、ふと思ったが…忘れているだけでないことを願うばかりだ。
思い出は物理的にも、私の記憶の中でさえ多く失われたが、その中でも「お前も歌の中では『僕』とか言うんだな」と笑っていたことが、なぜか一番記憶の中で鮮やかに残っている。
お前が歌った私の歌の歌詞が少し間違っていたことを指摘するかどうかを悩みながら、私は確か「歌の中では何にでもなる」というようなことを言ったと記憶している。
我ながら面白くもない返しだな。
「『僕』に愛されてみたくなったのか?」などと口説けばお前の照れた顔とツッコミを貰うことが出来てさぞ愉快だっただろうに。
永い時の中で、私が私でなくなっても。一人称を忘れ、口調にすら自信がなく、思い出が薄れても。
私の中でお前はずっと鮮やかな笑顔のままだ。
ここから蛇足だが、ここからが本題だ。

お前と共にいたあの頃、私の背後は幸福とは言えない現実に生きていた。我々を動かすことは現実逃避の手段の一つでもあったということだ。
その後も改善というような改善はないながら、現在に至り、遠くない内にこの世を去ろうと考えている。
もう充分だと考えたから、なのだろう。
私と背後とはイコールではないのでこの書き方になったがあまりにも他人事だな。笑ってくれ。

お前がこの世に在って、小さなこと一つ一つに喜びを感じ、時に涙しながらも生きていてくれるのならばそれが幸いだ。
この世との決別を考えている者の願いとしては傲慢この上ないが…
広い世の中で、あの時期にこの世界を知ることができたこと。お前に出逢えたこと。

別れてからもここを通じて何度も書き込んだが、それを含めても尚、改めて告げたい。
お前に、お前の背後に感謝している。

本当にありがとう。


私の背後は根性というものに欠ける。この世を去りきれない可能性もあるが、それでも此処が完全に消え去ってしまう前に、浮かんだお前との思い出を切欠として書き込んでおこうと考えた。
最後まで面倒で重いことこの上ないが、届かないことを前提として書き込んでいるのでどうか許して欲しい。

どれほど遠く離れても、お前の幸せを願っている。
どうか身体に気をつけて。


(…ここまで書いて、万が一にも私の正しい一人称が『俺』だった日には大変な笑い話だな。
お前ならきっと呆れながら「全然笑えねぇよ」とやんわりツッコミを入れてくれるのではないだろうか。
我ながら幸せな妄想だ。)
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赤アッシュ
(K/au)