40 通りすがり
そんなときに派遣社員の女性からビデオセンターに誘われたのである。
 そこには家庭の温もりに代わるものがあった。スタッフには、生き方や悩み、仕事のことなど何でも話すことができた。自分の存在を認めてくれ、仕事に対する真面目な態度をきちんと評価してくれた。それがうれしかった。
 それから日に日に統一教会にのめりこんでいくようになるが、狂信的ではなかった。
 統一教会の勧誘の過程はビデオセンターから始まり、ツーデーズ、フォーデーズと呼ばれる教化過程を経て入信していくことになるが、麻子はいつも一区切りついたらやめようと思っていた。(略)しかし、一つのコースが終わると、「ツーデーズ達成おめでとう」と賞賛され、「次はいよいよフォーデーズですね」と期待の声がかかる。
 そうなると断りにくくなる。とりわけ、親の期待に応えようとしてきた子どもは、相手を傷つけまいと、はっきり「ノー」と言わない傾向がある。

「我らの不快な隣人」(米本和広) 44p〜45p