87 あい
エクレシア会報 2011年1月号より (和賀牧師様、勝手な引用をご容赦ください。)

それは、その長野県のある父親からの必死の電話が入ってのことであった。
娘が統一原理信仰を守ろうと、死を覚悟しての断食を始めてもう二週間近くになっている。
このままでは本当に命に関わりそう・・・ついては和賀先生、何としても助けてください
というものであった。

それまで相談していた牧師のスケジュールを待っていたら、いつ取り組んでもらえるか
わからない。もはや限界状態となったので・・・との緊急の訴えだった。(中略)

松田満子(仮名)という娘さんは、希望していた日本航空就職に失敗して、卒業論文も手に着かず、
自殺さえ考えるほどの落ち込みの中で過ごしていた10月のある日、たまたま習字塾の途上で、
ある統一協会員に誘われる。そこで初めて原理の内容を聞き、いわば一発ヒットで涙の入信となり、
東京板橋のホームに入り込むことになる。

一応は卒業して父親の関係の職場に就職するものの、夜になると教会に住み込み状態となる。
こうした事態に不審を感じた親たちは、世間の手前からも当然じっとしてはおられなくなり、
何とか娘を取り戻そうと統一協会に乗り込み、強引に娘の荷物を引き取る。
しかし、一年で止めるからとの娘の言葉にも動かされ、週に1回くらいだったら
統一協会通いも了解すると親も妥協。しかし、実際は会社も辞め、統一協会以外の結婚は
絶対しないと主張し、公然と人参茶、大理石壷等の販売といった霊感商法に献身していくなど、
現実はどんどん深入りする一方となる。

ここに至って親たちは娘奪還の一大計画を立てた。まずは平屋建て一軒家を借り切って
保護説得の場所を確保する。長野からは遥か隔たった千葉県市原市五井という町だ。
それは隣近所に知られず、統一協会にも嗅ぎつけられないし、場所が分からなければ
娘も簡単に逃げ出しにくいからだ。こうして協力者の都合を調整して決行の日取りを
決めると、ついにその日、人参茶を買うとの口実で本人を呼び出す。不審の思いと
淡い期待を抱いて、17万相当の品物を持って現れた娘をそこで一気に捕まえ、
猿ぐつわまで噛ませて車に押し込むと、かねて用意した説得場所に一気に突っ走り、
そこに閉じ込めてしまう。統一協会の言う拉致監禁だ。

以来、長野から両親、親戚が入れ替わり立ち替わりやって来て説得するが、
娘は母親に組み付いたり、かと思えば死んだふり。徹夜の説得にも原理講論を抱いて
寝るなど徹底抗戦で渡り合った。

こうした緊迫状態の中で私のことを知り、先の電話となったのだ。その電話で相談者の
詳細を聞いてみると、その家の窓には全部格子を付け、ドアの鍵も親以外は開けられないように、
いわゆる強制保護状態で必死の脱会説得を続けているが、今や、本人は死に至る断食を
始めて、もう今日で12日目・・・・このままだと我が家は本人も家族も破滅です・・・・
という限界状況との事だった。

一部、そうした方法で解決となる場合もあるだろうが、ひとたび心深くに刻み込まれた
カルト信仰というものは、そうした親の感情にまかせた訴えなどで消えるものではない。
逆に殉教心に火がつき、事態は深刻になる一方となるのは当然でもある。取り組むとしたら、
まずこうした基本を十分理解しておくことが大切で、それも脱会させれば解決というような
単純なものでもないということも深く承知しておかねばならない。
しかし実際はこの例のようなパターンは少なくない。