1 ヴァン

アリサ達の部屋

思い出に感謝を添えて。
24 ヴァン
【アサヒ達の近況】

 お久しぶりです、アサヒです。
 …あによ、似合わないのは分かってるわよ、悪い? ふん、だ。

 あれからあたし達パーティーは、思ったより怪我が酷かったメンバーの治療に専念。一時的な充電期間に入らざるを得なかった。
 おっさん…バドの怪我がやっぱり一番深刻で、一月は絶対安静。ったく、そんなんであたしやヨナを担いで逃げるとか…とても癪だったけど、ありがとうって言ってやった。
 そしたら急に泣き出して、娘からお礼言われたのは数年ぶりだったとかなんとか…あたしはバドの娘じゃないっつーの。

 次に重症だったのがヨナ。
 特に頭の打ち所が悪かったみたいで、怪我もほぼ完治したってのにバドの隣のベッドを占領し続け、夜にはいそいそと隣のベッドに乗り込もうとしてバドから悲鳴を上げられていた。

「寝ぼけちゃった、てへ」

 今後はそういう路線で攻めるらしい。
 好きにすればいいと思う。

 比較的軽症だったハイネやヒナノは、探索が出来ない間の路銀稼ぎとバイトを始め、その合間に交代であたし達の看病、と忙しい日々を送っている。
 あんまり申し訳なくて、リハビリがてら筋トレなんてしようものなら、

「アサヒ、そういうのは私が見ている時にしてちょうだい」

 なんて叱られてしまった。
 もうそれくらい動けるほどには回復してるってのに。
 それでも肌着のまま筋トレするあたしを、あんまりじっと見つめてくるものだから、ハイネの過保護も行き過ぎじゃないかと思う。

「それ単に見たかっただけじゃな」

 ヒナノが言ってたことはよく分からなかった。女子が女子の汗かきながら運動してるところとか見たがるわけないのに。

 正直、夢見てた冒険譚なんかと比べると地味で嫌になることも多いけどさ、あたし、充実してて、凄く楽しんで冒険してると思う。
 だからさ、

 パパ

 それにママ

 いつか里帰りした時に、あたし達だけの大切な冒険譚。
 聞いてくれると嬉しいです。
 またその内、手紙出すね。
 バイバイ。
25 ヴァン
【ラッキークローバー】

 ーねぇ、『幸運の四つ葉』、って知ってる?

 相棒のそんな問いに、其処らの川辺をお探しになれば良いのではと返せば、違う違うと呆れたように笑いながら手を振りました。

「最近評判のギルドなんだよー? そこまで強くないらしいけど」

 強くない、それで有名とは如何な理由からでしょうか?
 はて、と首を傾げる私の疑問がお気に召したのか、目の前の地味系アースランはニマニマと笑い、

「地味って言うな〜!」

 無体にも私のいたいけなほっぺを無遠慮に引っ張ってくるではありませんか。ルナリアのお肌はデリケートだというのに、これだから地味系野良ハウンドは嫌なのです。ぷんすこ。

「これだからナチュラル毒吐きシャーマンは…! あ、それで話戻すけどさ、例えば迷宮探索中に、絶対敵わないような強敵に出くわしたとするじゃない?」

 はあ。

「そこで颯爽と、『幸運の四つ葉』の五人が現れるわけ!」

 ほほう。

「で、みんな仲良く一緒にピンチになると」

 駄目じゃないですか。
 何しに来たんですか幸運の四つ葉。

「けどね、それがね、幸運の四つ葉に会えたパーティーは絶対に生きて帰れるんだって。
どんなに辛くても、どんなに苦しくても、暗いことなんて考えてられなくなるくらい楽しくなってきてさ、そういうのなんかどうでもよくなってくるんだって」

 超怖いですね。
 ハーブでもキメてるのでわ。

「いい話に生々しい水指すの止めてよ!?」

 大体、五人なのに何故四つ葉なんです?

「あ、一人オッサンなんだって。瑞々しい若葉の中に枯れ葉が一枚」

 ーぴくっ

「しかも…ここだけの話、ロリコンらしいよ? ドラグーンだけどロリコーンって呼ばれてるって」

 ほほう。


 ーメリーナ、とりあえずエール!
26 ヴァン
【ハイネさんマジ乙女】

 お久しぶり、最近ウォーロックに転職したハイネよ。
 死霊は操れなくなったけど、あの子達はいつも私達を見守ってくれてるわ、ほら今もそこの陰に…って言ったらアサヒに後退られたわ。別に怪談のつもりじゃなくて、世界樹周辺とかネクロ人口多いから割りと景観の一部なのだけれど(ネクロジョーク)。

「あ、あのアサヒさん、未成年がそう堂々と飲酒宣言などするものでは…」

「あたしのじゃないわよ?」

「ああ良かった」

「バドの分頼んでやったの。ありがたく思へ!」

「僕、休肝日なんですが!?」

 それはアレとしてコレよ。
 最近アサヒとバドが、何をどう誤ったのか急接近してしまったわ。
 というか、アサヒが一方的になついてるだけなのだけど。
 …お義父様(誤字じゃないわ)と不仲だったものね。
 父性を求める気持ちは分かるわ。
 取り敢えずバドは事故を装って弱火でじっくり炒めるけど(ヤダ、ひょっとして…故意?)。

「あれ? ハイネ全然食べてないじゃん。どしたの、調子悪い?」

「別に、アサヒには関係ないことよ」

 つい、アサヒの気遣いにも素っ気なく返してしまうわ(反応が気になる)。
 ああ駄目ね、大人気ない。
 ほら、アサヒもあんな膨れっ面に、

「だったら教えてよ。ハイネの悩んでることで、あたしに関係ないことなんて一個もないんだから」

 ーてゅくてゅーん。
27 ヴァン
【ヒナノラブストーリー】

「…何故でしょう、物凄く年代を狙い撃ちされたイントロが聞こえてきてずっちーなって思いました」

「あの日あの時あの場所で君に会えなかったのかもしれんのぅ」

 普段の青白いくらいの肌を嘘みたいに真っ赤にして、言葉も出せずアサヒを見つめ続ける実は初心じゃったハイネ。
 そんなハイネを心配したアサヒが「ハイネ? ハイネー?」と約8メートルの距離から名前連呼しとる。
 見事なまでの東ラブの距離なのじゃ。それより見事なのは隣り合った席から一瞬でその距離を空けたハイネなのじゃ。初心な癖にロマンスにはどこまでも貪欲なのじゃ。のじゃ。

「まぁ、若者特有の某じゃからそっとしてやるのじゃ。
おぬしとて、世界樹でラブストーリーの主役になったことくらいあるじゃろう?
じゃから今バツイチなんじゃろう? じゃろ?」

「なんですか、その恥ずかしいフレーズは。
それより、唐突にバツイチをディスるのはやめてくれませんか」

 おっさん涙目なのじゃ。傷はまだ癒えてないのじゃ。
 しかし、ラブストーリーのぅ…。
 悲しいことに、わし、軍隊勤務で浮いた話とか無縁じゃったのぅ…。


『ヒナノ衛生曹長! 治療を頼む! 五分でな! この後すぐ前線に戻る!』

『のじゃ!? おぬし、またこんなに怪我をこさえおって! 駄目じゃ駄目じゃ、前線復帰どころか一週間はベッドで絶対安静じゃ!』

『それは困る! 我は動いてないと逆に死ぬぞ! どうしてもというならヒナノ衛生曹長! 我がちゃんと寝られるよう我の側で! 手を繋いで落ち着かせてもらいたい!』

『マグロかおぬしは!? アホ言っとらんで早うベッドに入らんかい!』


「…あれ? わし遠回しに告られてるのじゃ?」

 今思えばものっそしょんぼりしとったような。のじゃ。のじゃ…(泣)